今夜 君をさらいにいく【完】
飲み会
薬品の匂いが鼻につく待合室で、私は血液検査の結果を待っていた。
「桜井安奈さーん」と、看護師が大きな声で名前を呼ぶ。
70代くらいのおじいさん先生から「胃炎」と診断され、整腸剤や漢方など、一週間分の薬を出してくれた。
胃炎はストレスからきたのか、疲れのせいなのかはわからないが、私の体は悲鳴を上げていた。
調剤薬局で薬をもらい、ゆっくりとした歩調で電車に乗り込む。
いつもは満員電車で押しくらまんじゅう状態の車内も、今日はゆったりと座る事ができた。
腕時計の針がAM11時を差している。
会社に到着し、センターの入口付近で藤本さんに出くわした。
彼女は私の姿を見つけるなり、あからさまに嫌そうな顔をしてきた。
「おはようございまーっす・・・」
声のトーンを低くして挨拶し、目の前を通り過ぎようとした時、「ちょっと待って」と言われたので驚いて立ち止まった。
「昨日も今日も遅刻した理由は体調が悪いって聞いてるけど。本当なの?」
怪訝な目つきで私に問いかける。