今夜 君をさらいにいく【完】
その意味を込めて部下達に怒鳴ったりすることもあるが、こいつには伝わっているのだろうか。
そしてこの間注意している最中も、桜井は上の空の時があった。
だから俺は思わず中退した話を出した。
甘ったれるなと。社会は厳しいものだと教えたかった。
困惑した表情をみせたが、こいつの事だからすぐに立ち直るだろうと思っていた。
だけどこの日はいつになく口数も少なくなり、表情も暗いままだ。
少し言いすぎたのかと俺も思ったが、その心配はなかったと昼休みに確信した。
バイトの三条と楽しそうに話していたから。
三条の前では笑顔を見せていた桜井だが、俺と会うと気まずそうな顔をした。
まぁ、嫌われる事には慣れている。
こういう役の奴もいなければ人は気付かないし、成長もできないだろうし。
しかし居酒屋で会った桜井は以前と変わらない笑顔を見せた。
「あ!お疲れ様です!今来られたんですか!?」
「ああ、もう着いてたのか」
そう俺が言うと、桜井は元気よく「はい!」と応えた。
こいつは元気な所だけが取り柄だな。
だが、桜井も精神的に弱いのか、食いすぎたからなのか最近胃を壊している。
この前は顔を真っ青にさせていた。だから元気な桜井を見ると安心した。