今夜 君をさらいにいく【完】
「いいんだよ、俺の方が何度もしつこくてごめん。でも、俺は本気なんだよ。君の家の事情も知っている。そんな君を助けたいんだ。苦労させたくない」
テーブルの上に置いてあるキャンドルの光が、瞳に反射してキラキラしている。
とても真っすぐで綺麗な目。
「俺は君の心に惚れたんだよ。最初はただ可愛いなと思っていた。でも何度か会って話していくうちに、どんどん君の素直な所や純粋な心に惹かれていった。この子を・・・サナちゃんを幸せにしたいと思ったんだ」
「飯田さん・・・」
今日、はっきり断ろうと心に決めていた。お客さんとしてもうお店に来てくれないかもしれない・・・それでもちゃんと言おうと決めてたのに・・・。
それなのに、言葉が出てこない。
「サナちゃん、もう一度考え直してくれないか?客としてじゃなく、一人の男として見てほしい」
目が・・・離せなかった。
正直、心は揺れていた。
この先、見込みのない黒崎さんを想い続けるのは辛い事だ。
それに・・・黒崎さんには色んな事を隠している。家族の事や夜の仕事の事。
だから私の事をわかってくれている上に、こんなにも本気で想ってくれているのなら、飯田さんと付き合った方が幸せになれるだろう。
飯田さんの言葉がしばらく頭から離れなかった。