君と出会ってーー。~あなたがいた頃は~
「では、薬を今注射しましたので。何かありましたらすぐにナースコールを押してくださいね。」








「…はい。」







「…。ありがとうございました。」








ついに…来てしまった。








徐々に記憶をなくす、空斗。








初めに何の記憶をなくすのだろう。








そんなことを考えながら、空斗の手を握る。








すると、空斗が目を開いた。








「空斗…!?」








「琴…音?…蓮?あれ…?母さんまで…。俺どうしたんだ?」







あぁ…たぶん発作の記憶を忘れたのだろう。






3人そろって、ホッと胸をなでおろす。







空斗はいつまで、2人の思い出を覚えていてくれるのだろう。








綺麗に澄んだ目であたしを見てくれるのだろう。







そして、いつまであたしの事を“琴音”と呼んでくれるのだろう。








そんなことを考えるあたしの頬には、涙がつたっていた。







それを見て空斗があわてる。








「コ、琴音!?どうした…?どっか痛いのか?」







「ううん。大丈夫…。何でもないよ。」








「そっか…?」








「空斗、じゃ俺と海生さん、そろそろ帰るな!安静にしとけよ?」








「おぅ!またなー」






あたしと空斗が病室にとり残される。







空斗を見て決めた。






空斗の記憶が無くなっても毎日会って話をしよう。







1日ずつ記憶が無くなる空斗に毎回新しく覚えてもらうんだ――。






絶対にあきらめない。






空斗はいつか元の空斗に戻ると信じ続けよう。






信じればきっと、奇跡は起こる。







あたしはずっと空斗を愛し続けるから。






…たとえ何があっても。







「なぁ?海生さんって…誰だっけ?」







「…!」






あたしは言葉を失った―――――。






空斗が母親を忘れた…。






「うそ…でしょ…」
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