君と出会ってーー。~あなたがいた頃は~
あたしは抱きしめた。




心がボロボロになっている空斗を。





一人で全てを抱え込んで苦しんでいる空斗を。





あたしは何もしてあげる事が出来ない。





だって、あたしも同じ立場に立っているから。




少し空斗がリードしてしまっているだけで、同じ不安を抱いているから。





悲しくて、苦しくて、頭をずっと鈍器で殴られているような、そんな感覚に襲われる。




「う…ぅぅ…」





空斗があたしの服を、あたしが空斗の服を濡らしていく。





ねぇ、空斗?そんなに我慢していたの?





いつも、大丈夫と見栄を張っていたの?





そして。あたしは、ずーっとそれに気づかずにいたの?





「琴…音ぇ…」




初めて聞くようなこの声は、あまりにも残酷で、小さな声だった。









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