何度でも何度でも…
すたすたと人がまばらな館内を時折すれ違うカップルや親子連れに目をやりながら歩く

「ねえ、乗り物酔いって三半規管の問題だっけ」

「ああ、軽い自律神経の失調症状だよ」

「海斗、絶対音感あるもんねー、あれって敏感な人ほど酔いやすいんだよね、確か」

うんうんと納得したように頷く

「しるふだって音感はあるだろ」

「でも海斗ほどじゃないよ、半音くらいのずれだとさすがにわかんないもん」

そういうしるふを、「ここの音ずれてない?」と海斗のマンションにあるグランドピアノの鍵盤をたたいていたしるふを思い出しながら海斗は眺める

あの時は調律前でところどころ音がずれていたのだ

それを言い当てたのだからしるふだって相当の音感はあるはずなのだが

ま、しるふの場合無自覚なことが多いからな

とこの3年その無自覚さに振り回された日々を想う

今となっては多少のことでは驚かなくなったけれど、その当時はかなり振り回された

無自覚とは恐ろしいものだ

それすらもいい思い出と言えるのだから自分は相当しるふに弱い



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