純愛短編集(完)

『独占力』


見つめるだけなら…想うだけなら、自由でしょう?

だからずっと、見つめていたけれど…ただ、虚しいだけだった。



クラスメイトの女子を迎えに来た、私の好きな人。

その子の名前を優しく呼んで、優しく微笑んだ先輩。


私の名前を呼んでほしい…私に優しく微笑んでほしい…。


何度も思った、叶うはずのないこの願い。

先輩の想いは、全てあの人に伝えられている。

…私にも、あの想いをぶつけてほしい。

何度…何度、叶うはずのないことを願っただろう。



先輩があの子以外の誰かに優しく接していたところを、私は偶然見てしまった。

見た瞬間に胸の奥から湧き出た黒い感情に、私の顔は険しくなっているだろう。

しかし、少し遠いところで同じように見ているクラスメイトを見つけた瞬間、思わず“良い気味だ”と思ってしまった。

いつも優しくて、あまり怒らないあの子の新しい一面を見ることができそうで、嬉しいとまで思っていた。

誰だって、強い独占力を持っている。

だから、嫉妬で歪む顔を見る事ができるかもしれないと、自分の黒い感情を忘れ、ワクワクしてしまった。

しかし、そんな私の期待を、あの子は簡単に裏切ってみせた。


あの子は悲しそうに、穏やかに微笑むだけだったんだ。


瞬間、訪れた虚無感。

どうすればいいのかわからない、この虚無感。

あの子に抱いた、この負の感情。

私はなんて…なんて、醜いのだろうか。

もう嫉妬などの想いは嫌だ…この虚無感から、抜け出したい。


この独占力、嫉妬の想いを、抑える方法はありませんか。


そう思ってしまった私はやっぱり、結局は先輩を好きでいたかったのだろう。

無くす、ではなくて、抑える、だったんだから。



いつものこと…家に帰ってすぐ、切なく嗚咽を漏らすのも。

そう、いつものこと…虚無感に苛まれるのも、涙で枕を濡らすのも。



助けてと、何度願っただろう―――



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