純愛短編集(完)
『卒業式』
校門の前に、看板が置いてあった。
どことなく哀愁を漂わせているのは、学校全体か、それとも…。
朝の10時、看板の上にポツポツ降ってくる水。
「…ぁ」
女はその光景を見て、反射的に呟いた。
幸い、卒業生が入場してきたところなので、その呟きは音楽と拍手に掻き消された。
(雨が…先輩の、卒業式なのに…)
拍手の手を止めず、卒業生の列に体を向けている女。
その女が視線だけ上にあげ、降り始めた雨を見つめていたなど、いったい誰が気付こうか。
そして眉を下げて悲しそうな顔をしているなど、誰が気付こうか。
女の憂いを帯びた瞳には、いったい“なに”が映っているのだろうか。
それはきっと、女にしか分からない…。
「三組の入場です」
その言葉に女はハッとして、卒業生が入ってくる入り口に目を向けた。
瞳だけが忙しなく動き、そして最後には、一人に向けられた。
悲しそうな顔は、一転して笑顔に変わった。
卒業式が終わった後の高校の正門前。
花を持った卒業生の男と、在校生の女が二人でいた。
「先に行って、待ってるから」
すぐに高校の事だと、女は気付いた。
「これ…うちの学校は、第二ボタンとか駄目だからね…」
渡されたのは、ハンカチだった。
(知ってる…これ、先輩のお気に入りの…)
「…あり、がとう…ござっいますっ…‼」
何故かは分からない。
“想い”が…“涙”が、溢れて止まらなかった―――