純愛短編集(完)

朝、小鳥も鳥も煩いくらいに鳴いていた。

目覚ましの丁度6分前に、女は目を覚ました。

自然に目を覚ましたら、普通はスッキリした気持ちで起きるはずなのに、女は不機嫌そうな顔で起き上がった。

「…鳥、煩い」

女からしてみれば、鳥の鳴き声に無理やり起こされたようなものなのだろう。

酷く苛立っている女は、もうすっかり覚めた目で目覚ましを見た。

目覚ましの5分前を表示しているアナログ時計の針。

次の瞬間、目覚ましは仕事をする前に仕事をキャンセルされた。

何故だろう、女の不機嫌さに一層拍車が掛かったような気がした。



準備を終えてすぐに玄関に行き、女は靴を履いて鞄を持ち、リボンがずれていないか確認してから家を出た。



自分とは無縁の“友達”や“恋人”を持っている人達が、校門を次々に潜っていく。

少女の顔に、憂いが浮かんでは沈んでいった。

人付き合いが苦手な自分は、小学校でも中学校でも、高校ですらも友達を作ることが出来なかった。

友達を作ることが出来なかったのだ、恋人なんて作れるわけがない。



下駄箱で自分の名前を探すと、2年1組のところにあった。

女は前のドアから2年1組の教室へ入り、黒板に貼られた紙を一瞥して自分の席に向かい座った。

横に鞄を掛けて移動の声が掛けられるまで本を取り出し読んでいた。

そんな時、男に声を掛けられた。

「おはよう!!これから宜しくね!!」

その男は女の隣の席に座り、机の横に鞄を掛けて女に話し掛けていた。

返事を返すのは礼儀だと思っている女は、男に「…宜しく」と言った。

その言葉のどこで嬉しがれるのか、男は嬉しそうに「うん、宜しく!!」と言いながら握手を求めてきた。

久しぶりに同年代の人に触れた女は、男の手から感じる温もりについ微笑んだ。

本当に長い間、誰からも掛けられることのなかった「おはよう」という言葉。


手を離しても、まだ残っている男の手の温もりを、女は感じていた―――



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