純愛短編集(完)
『夢で君と』
まだ風が冷たいこの時期。
少女は自分以外の誰もいない部屋で、「おやすみ」と言い布団に入った。
お天気お姉さんが言っていたとおり、空は晴れていた。
空を見上げれば、十にも満たない雲の数。
少女はジェットコースターの前に並んでいる人達を指で差した。
「今ならすぐに乗れるよ!!」
はしゃぐ少女を見て、少年はフッと笑みをこぼした。
「そんなに急がなくたって、乗れるけど…転ぶなよ!!」
呟くように言ったかと思うと、大きな声でそう言った。
「楽しかった!!また来ようね!!」
「…あぁ、来よう」
オレンジ色の雲を見ながら、少年は目を細めてそう言った。
そんな少年を見て、何故か少女の心は震えた。
“どこか遠くへ、私の知らないどこか遠くへ行ってしまう…”
そんな根拠のない焦りが、少女を怯えさせた。
彼のすぐ近くにいる、他の誰でもない私が。
しかし、そう思えば思うほどに、少年は遠ざかっていくような気がした。
咄嗟に伸ばした手は、虚しく空を切った。
そして次の瞬間、少女は思う。
“目の錯覚だろうか”と。
歩いてもいないのに、少年は遠ざかっていく。
何故か自らの足が動かないことに、少女は苛立ちと悲しみを感じていた。
足が動かないだけではなく、声も出ない。
気付けば、意識すらも失っていた。
「待っ…て………」
頬に流れた妙に温かい雫。
少女は、泣いていた。
なんてリアルな夢だろう、と少女は思った。
「………夢…?」
ハッとして、今の今まで見ていた“夢”を思い出した少女は、布団の中に潜った。
現実では有り得ないことだから、見れて嬉しい。
でも夢だったってことと、離れてしまうということが、どうしようもなく悲しかった。
「好き…」
ほら、口にしてみると、こんなにも“悲しい”と“愛しい”という気持ちが湧き上がってくる。
告白する勇気を持たない…いや、持てない自分が、無償に悔しかった。
「好きっ…好きなのっ…ぅっ…」
“大好きなのに、なんで気持ちを伝えられないの”
乾ききっていない頬に流れた涙は、涙の痕を頬に残して、落ちた―――