純愛短編集(完)

私はばれた…と心の中で呟いた。

寝てから一時間が経った時、私は目を覚ました。

それから一度も寝ていない。

いつも兄が彼女の家へお泊まり会に行く日はこうなので、翌日は隈が酷いのだ。

しかし、私が適当に誤魔化せば、すぐに兄は納得して別の話を始める。

夕方五時頃に帰って来た兄から聞かされるのは、決まって彼女のこと。

所謂…惚気、というものである。

兄が彼女との事を相談してくるのも、今日あったことを妹に話すのも、一般家庭なら当然のこと。

しかし、妹が兄を思うのではなく、想っていたらどうだろう。

彼が彼女の料理が美味しいと言えば、妹は私だって料理は得意だと思う。

彼が彼女の優しい所を話せば、妹の顔に一瞬だけ翳りが窺える。

妹の微かな表情の変化に、気分が有頂天になっている兄は気付かない。



隣に寝っ転がっている兄の背中に、私は抱き着いた。

兄は私に「どうした?」と言いながら、態勢を変えて正面から抱きしめる。

「おやすみ」と私が言えば、兄も「おやすみ」と言葉を返した。

これでいい…傍にいられるなら“今”は、これでいい…。

女性はそれを最後に、意識を飛ばした。



その日見た夢は、兄と兄の彼女が結婚式で指輪を交換している夢だった。

私は起きて、まだ寝ている兄を見ながら想う。

…傍にいられるのなら、結婚していたっていい。


     “傍にさえ、いられるのなら”


静かに流れ落ちた涙に、気付かないフリをした―――



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