シークレット ハニー~101号室の恋事情~
五十嵐さんはそう言ってから、「でも」とはっきりとした口調で続けた。
「もしも同じマンションでなかったとしても絶対に葉月を探し出してたなんて事は言えないけど、これだけは言えるよ。
他の誰でもない葉月と一緒にいられて、今まで感じた事のないくらいに幸せだって」
見上げる先で、五十嵐さんが優しく笑う。
「初めて言葉を交わした時から、葉月と話しているといつも地に足がつく気がするんだ。自分の存在をしっかりと感じる。
芸能界を引退してしばらくは、バンドを抜けた自分に何の存在価値があるのか分からなくなった事もあったけど、今は違う。
前にも言ったけど、葉月が俺の居場所を教えてくれるから、歩くこともできるし走り出せる」
迷いのない、優しくも強い色を映し出す瞳が、しっかりと私を見つめていた。