シークレット ハニー~101号室の恋事情~
「今日、帰りご飯寄って行かない?」
「別にいいですけど……急ですね」
「うん。雨宮が私に話す事がありそうだから」
勘ぐっていた瞳が、わくわくと輝きだす。
「私から逃げられるとは思わないよね、雨宮」
蛇に睨まれた蛙。
そんな言葉が頭に浮かぶ。
福島さんが窓口に出てから六年。
振り込め詐欺を止める事、十数回。
目的を明確にしない口座開設を止める事、数回。
預金や融資の勧誘も的確で、社内では個人で表彰される事数回。
福島さんの仕事は窓口係、つまりテラー係のお手本で、去年なんか社内ナンバーワンテラーの称号をものにしていたくらいだ。
それらはつまり、ものすごく洞察力の鋭い人って事を表していて。
そんな福島さんに、逃げられると思ってんの?なんて言われたら……。
諦めるほかない。
「行かせて頂きます……」
「よし。じゃあ早く片付けて行こ」
「……はーい」
なんとか笑顔を作った私を見て、福島さんが満足そうに笑った。