シークレット ハニー~101号室の恋事情~


「あの頃は、多分……。
私、それまであまり恋愛してこなかったから、初めての彼氏だったのも大きかった気がしますけど」
「ああ、初めての彼氏って特別だもんね」
「でも、別れる時は本当に気持ちは残っていなかったんです。
ただ、別れ話を切り出したら粘られて……それを突き放した事がしばらく引っかかっちゃってただけで。
悪い事しちゃったっていうか、罪悪感があったから」


流れでとは言え自分から告白したのに、別れも自分からなんて勝手だって思いがあった。

一緒に過ごした時間の中で変わっていった気持ちは仕方ない事だ。
そんな風に思い込もうともしたけど、小さな罪悪感は消えず、別れを告げた時の野田の顔を思い出すと未だに胸がざわざわする。


「え、野田さん、引き下がったの?」
「はい……。あの人、軽いところあるから、別れようって言っても“まいっか”みたいな感じの反応が返ってくると思ってたのに、“考え直せない?”って」
「へー。なんか意外」
「私、あまり執着しないし、あっさりしてるところがあるから、そういうとこが野田は付き合ってて気楽だったみたいで」




< 54 / 313 >

この作品をシェア

pagetop