シークレット ハニー~101号室の恋事情~


「葉月が俺の事避けてるみたいだから理由を聞きたくて」
「……避けてません」
「俺も目立つのは嫌だから本当なら中で待ちたかったんだけど、管理人だからって勝手に入ったらまずいかと思って」
「当たり前でしょっ。何の問題も起こしていない住人の部屋に入るなんて不法侵入です!」
「だから、危険も顧みずこうして待ってたんだ。
よかったら部屋にあげてくれない?」


そう微笑む五十嵐さんに、今朝福島さんから聞いた噂話を思い出す。

そうか。この人も噂に振り回されてるひとりなのか。
しかも私なんかとは比べ物にならないくらいの全国的な悪口に。

ヒソヒソどころか、テレビでも雑誌でも堂々と話されちゃうなんて、一体どんな気持ちだったんだろう。


「何もしないって、契約書にサインするなら」


ぼそぼそと言うと、五十嵐さんは「サインなら得意なんだ」と笑う。


「カッコつけたごちゃごちしたのじゃなくて、読みやすいサインです」
「葉月が欲しいならいくらでも」


にっこり微笑む五十嵐さんに戸惑いながら、部屋の鍵を開けた。




< 68 / 313 >

この作品をシェア

pagetop