シークレット ハニー~101号室の恋事情~


部屋のドアの前で口論する事、数分。
私が本気だって分かったからか、野田はようやく「分かったよ」と白旗を上げた。

長かった……。本当に、“ようやく”だ。
背中を向けた野田を見て、どっと疲労感が落ちてくる。

来週からの仕事は、もう考えないようにしよう。
これ以上重たい気持ちになってそのまま週末を過ごさなくちゃになるなんてごめんだ。

マンションの敷地内から出るまでは不安でなんとなく眺めていると、野田が数歩進んだところで振り返った。
その顔は何かを思い出したようで、なんだろう嫌だななんて思いながら見ていると。
野田が、数メートル先から聞く。


「そういえばさー、治った? 不感症」


彼に言われた、様々なデリカシーゼロ発言。
その中で、一番堪えた言葉が頭の中に響く。

『葉月ってさー、不感症だろ。
いや、初めてだし、最初の2,3回は痛くてもしょうがないけどさー。
もう一年じゃん? なのに感じないって不感症じゃん?』


別れる数日前に言われた言葉だった。



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