シークレット ハニー~101号室の恋事情~
――そう。何かあってからじゃ嫌なんだからちゃんと言うべきだったんだ。
五十嵐さんじゃなく、野田に。
きっと今の気持ちを擬人化したら野田にすぐさま襲いかかると思う。
いや、わざわざ擬人化させるまでもなく、今だったら私自身が襲いかかれるかもしれない。
片手で野田の首締め上げられるレベル。
「なんで言うの? バカじゃないの?!」
非常階段に私の声が響く。
とにかく一刻も早くふたりきりになりたかったから、声の反響まで考えてなかった。
私に睨みつけられた野田は、「そんな怒るなってー」と笑う。
「え、なんでこんな状況で笑えるの? バカなの?」
「昨日の飲み会で恋バナになったからついぽろっと言っちゃっただけで、悪気はないんだって」
「悪気とかいう問題じゃなくて、私と付き合ってた事が社内に広まったら仕事がしづらくなるでしょ?!
なんでそんな事も分からないの?!」
もう一度「バカなんじゃない?!」と怒鳴るように言うと、野田はなおも笑ったまま言う。