シークレット ハニー~101号室の恋事情~


私が言ったんじゃない。
野田が酔って勝手に広めただけだ。
私が悪いんじゃないのに。

ついそんな本音を口にしそうになったけど、途中でやめた。

無駄だと分かったから。
異動に逆らったサラリーマンなんて見た事ない。


「私、どこに異動になるんでしょうか」
「ああ、監査課だ」
「監査……?」


覚悟して聞いたつもりだったけれど、返ってきた言葉があまりに唐突すぎて思わず聞き返す。
預金課だとか融資課だとか、嫌だけど事務管理課だとか。
そういう、今の業務となんらかのつながりがある課なら話も分かるけど……。

監査課なんて……ちょっと異動だとしても飛びすぎてる。
驚く私に、課長が続ける。


「雨宮なら大丈夫だよ。今までの経験もあるし問題ない」


そんな、大丈夫だとか問題ないとか言われても、動揺は消えないけれど。
もう、聞き返す気力さえ残っていなかった。



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