シークレット ハニー~101号室の恋事情~


瞬間的に、昔話の傘地蔵が頭に浮かんだ私は相当疲れていたのかもしれない。
このご時世に誰が恩返しにくるっていうんだろう。

一瞬とは言え、アホな事を考えてしまった自分に呆れて笑みを浮かべながら、なんとか立ち上がって玄関に向かう。

野田だったらどうしよう。
ないとは思うけど、今日みたいに嫌な事しかなかった日ならそんな悪夢もありえそうで怖い。

嫌だなー野田だったら居留守だなーと思いながらドアホンを確認して。
それから、鍵を開けてドアを押した。


「さっき、鍵が開く音がしたから。
今日暇だったからシチュー作ってみたんだけど、葉月と食べようかと思って」


そう言って微笑んだ五十嵐さんに、ホっとして涙が浮かびそうになった。
ただじっと見つめている私を不思議に思ったのか、五十嵐さんが「葉月?」と呼ぶ。


「お腹すいた……」


呟くように言うと、五十嵐さんが微笑んだ。

そうだった。
今日の嫌な事はあの手紙でもうおしまいだったんだ。



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