シークレット ハニー~101号室の恋事情~
振り向くと、目の前が真っ白になる。
それは私の視力だとか頭の問題ではなく、声の主が思いのほかすぐ近くに立っていたから。
白いTシャツを着ているその人を、ゆっくりと見上げる。
160センチの私よりも20センチ近く高い位置にある顔に見覚えがあった。
ポストでよく一緒になる人だ。
顔を合わせるたびに挨拶はするけど、名前も知らなければ何号室の住人なのかもしらない。
それくらいの顔見知りは、3年も同じ場所に住んでいれば何人もいるし特に気にかけたりはしてないけど、この人だけは特別だった。
身長が高いっていうのもあるけど、とにかく美形だったから。
最初会った時は、キャップを深くかぶってたから、ああオタクかなにかかな、くらいにしか思っていなかったんだけど。
何度か顔を合わせるうちに、深くかぶった帽子に隠れた顔が、半端なく整ってるって気づいた。
なんでいつも帽子をかぶっているのかは疑問に思ったけど、そんなのは私に関係ないし、特に気にするわけでもなく挨拶し続けて一年ちょっと。