シークレット ハニー~101号室の恋事情~


五十嵐さんが今日用意してくれたのは、アップルティーだった。
この間、桃の香りの紅茶をおいしいって言ったのを覚えてくれていたのかもしれない。

アップルティーなんてペットボトルでしか買わないから、カップで飲むのが新鮮だった。
でも、とても安心する味と香りで。

気付くとふぅと息をついていた。

そんな私に微笑んだ後、五十嵐さんもカップを口に運ぶ。
お互い何も話さない静かな空間だった。

出会って間もないのに、沈黙が心地よく感じるから不思議だ。

普通だったらそわそわして落ち着かなくて話題を探すのに、五十嵐さん相手だと気にならない。

ふたりでいる事が自然に感じられるのは、五十嵐さんの持つ雰囲気のおかげなのかもしれない。

寛容的で優しくて柔らかい。
一緒にいると、この雰囲気をすごく好きだなぁと素直に感じる。


「独り言、言ってもいいですか」


呟くように言うと、「もちろん」と静かなトーンで返される。
私も、両手で持ったカップの中の紅茶を見つめたまま、同じようなトーンで声を出した。



< 91 / 313 >

この作品をシェア

pagetop