【コメ祭2】クレーム対応
髪の毛の長さ云々以前に、このコック長には落ちるべき髪の毛が無い。
二人組のヤクザ者も、さすがにこれには驚いた。
「うっ……」
「どうです?疑いは晴れましたかな?」
コック長がスキンヘッドとは、運が良かった。これで二人組は引き下がるかも……
そう思った私だったが、ヤクザ者は執拗にもまだ食い下がって来たのだ。
「おい、この店のコックはお前だけじゃねぇ筈だ!他の奴らも連れてこいっ!」
「えっ、他のコックもですか?」
「そうだ!全員連れてこいっ!」
まさか、この二人組がここまで食い下がるとは……どうするオーナー、まさか全員スキンヘッドなんて事はあるまい。
オーナーは暫く考えていたが……
「分かりました。少々お待ち下さい!」
そう言って、厨房の方へと消えていった。
再び10分待たされる。
「おいっ!いったい何やってんだ!
早くしろバカヤロウ!」
ヤクザ者の言う通りだ。
さっきといい、厨房でいったい何やってんだ?
そして、オーナーは三人の男を連れて戻って来た。
「お待たせしました。この三人がコックの田中、前田、高橋です」
「あり得ねぇ……」
田中は金髪のモヒカン、前田は赤髪のモヒカン、高橋は紫髪のモヒカンだった。
「どうも、俺達プライベートでバンド組んでまして……」
私は、ある事に気が付いた。
これはもう、考えられる事はひとつしか無い。
このコック達は、あの待っていた
10分の間に厨房で髪の毛を剃り、そして染めていたのだ!
よく見れば、スキンヘッドのコック長の後頭部には、出来たばかりのカミソリ負けの跡がある。
そこまでやるか!オーナー!
「あの、これで疑いは晴れましたか?」
「もういい!俺達は帰る!」
二人組は、すっかり戦意を喪失していた。
「そうですか。またお越し下さいませ」
「二度と来るかっ!」
二人組のヤクザ者は、肩を落として帰ってしまった。
それと同時に周りの客からは、見事にヤクザ者達を追い払ったオーナーに、労いの拍手が送られていた。
やり方はとんでもないが、恐喝をして金をむしり取ろうとするヤクザ者を撃退したこの店の対応に、私はなんだか清々しい気分になった。
出された料理もそんなに悪くない。
会社に出す報告書には、星五つ付けてやろうかしらん♪
そう思いながら、私は食後に頼んだコーヒーに口をつけようとした……
あ…………
このコーヒー、ハエが浮いてるし………
END
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