プラトニック
聖夜に願うこと
クリスマスという日が、あまり好きじゃなかった。
賑わうオモチャ屋も
街のイルミネーションも、
幸せが義務づけられているようで、息苦しくて。
だけどこの年のイブだけは、いつまでも心に残ってる。
「今日はさすがに生徒が少なかったですねえ」
職員室で帰る準備をしていたら、同僚の女性講師がしみじみと言った。
「そうですね」
「こっちはイブも仕事してるってのに、生徒たちは予備校さぼって遊んでるんやから。気楽なもんですよ」
わたしはその言葉に苦笑しながらうなずいて、ふと彼女の机に視線を落とした。
山積みのテキストの横に、クリスマスツリーがひっそり飾られている。
手のひらに乗りそうなほど小さいツリーは、なんだか少しいじましかった。
「水野先生はこのあとデートですか?」
「まさか。一人暮らしの部屋にまっすぐ帰るだけですよ」
お先に失礼します、と周りに聞こえる声で言って、わたしは職員室を出た。