プラトニック
「えーっと。受験勉強もせずにギターばっかり弾いてて、昨日、親父にゲンコツ食らわされました~」


ステージでマイクを持ってそう話すのは、栗島くんだ。

以前見た初ライブのときよりずっと堂々としていて、ギターをかまえる姿もさまになっている。
 

ライブハウスの中は、夏の暑さとは別物の熱に包まれていた。

人と人がぶつかって生まれる熱気。

人間の熱さだ。


前は苦手だと思ったのに、今日は不思議と嫌じゃなかった。

となりに瑠衣がいてくれたからかもしれない。


「んじゃ1曲目いきます」


ダダン! という軽快なドラムの音を合図に演奏が始まった。


思わず、口をぽかんを開けてしまった。

前に聴いたときとは比べ物にならないほど、上達していたから。


そりゃあ練習していればうまくはなるだろうけれど、予想をはるかに超えていた。

他を圧倒するほどの成長スピードは、若さの特権だろうか。


栗島くんの表情は真剣でありながら、楽しそうな余裕が垣間見えた。

それはきっと、自信の表れ。


隣を確認すると、瑠衣もわたしと同じように口を開けてステージに見入っていた。


「俺」


わたしにしか聞こえないような声で、瑠衣が言った。


「久しぶりに栗島の演奏みたけど、感動したかも」


瑠衣の声を、客の声援がかき消した。






そのあと他のバンドと合同の打ち上げに、わたしたちも参加させてもらった。


ベーシストの先輩が勤めているというバーを貸しきって、決して広くはない店内に30人くらいが集まっている。


栗島くんはわたしたちの姿を見つけると、立ち話する人の間を縫って、小走りで駆け寄ってきた。


「水野先生! 来てくれたんですか!?」

< 236 / 308 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop