プラトニック
――絶対、幻だと思った。
アパートでわたしを見たときのことを、瑠衣はそう語った。
このタイミングで現れるなんて、幻でしかありえないと思った、と。
このタイミング。
つまり、涼子ちゃんとの鉢合わせ。
わたしが行く直前に、涼子ちゃんは瑠衣の部屋を訪れたのだという。
前の予備校でのトラブルから、ずっと疎遠になっていたふたり。
幼なじみとして過ごす無邪気だった時代とは、すっかり空気が変わっていた。
涼子ちゃんは、胸に秘めてきた瑠衣への想いをとうとう告げた。
「でもあそこで葵が来てくれたおかげで……俺、自分を見失わずにすんだんや。
俺が好きな人はやっぱり葵だけやって、痛感した」
涼子ちゃんの長い長い恋は、幕を降ろしたばかり。
……ごめんなさい。
だけど、わたしも瑠衣が好きだから。
本当に好きだから。
わたしは瑠衣にふさわしくないかもしれないけれど、あと一度だけ、チャンスをください。
そしてもうひとつ、幕を降ろす恋がある。
『そっか』
卓巳は電話の向こうで短く言った。
『水野が決めたことなら、俺は見守るよ』
突き放さず、最後まで温かい彼の言葉。
卓巳との7年ぶりの再会が、荒んでいたわたしの心を、どれだけ救ってくれたかわからない。
……ありがとう。
2度も傷つけてしまったその人は、多くのものを失いながらも凛と生きる人だった。
そして莉奈ちゃんという、ひたすら未来に向かう小さな命。
忘れかけていた温かい時間を、思い出させてくれたあの親子を、わたしもずっと見守っていきたい。
もしも願うことが許されるなら、これからもどうか、大切な友でいてください。
アパートでわたしを見たときのことを、瑠衣はそう語った。
このタイミングで現れるなんて、幻でしかありえないと思った、と。
このタイミング。
つまり、涼子ちゃんとの鉢合わせ。
わたしが行く直前に、涼子ちゃんは瑠衣の部屋を訪れたのだという。
前の予備校でのトラブルから、ずっと疎遠になっていたふたり。
幼なじみとして過ごす無邪気だった時代とは、すっかり空気が変わっていた。
涼子ちゃんは、胸に秘めてきた瑠衣への想いをとうとう告げた。
「でもあそこで葵が来てくれたおかげで……俺、自分を見失わずにすんだんや。
俺が好きな人はやっぱり葵だけやって、痛感した」
涼子ちゃんの長い長い恋は、幕を降ろしたばかり。
……ごめんなさい。
だけど、わたしも瑠衣が好きだから。
本当に好きだから。
わたしは瑠衣にふさわしくないかもしれないけれど、あと一度だけ、チャンスをください。
そしてもうひとつ、幕を降ろす恋がある。
『そっか』
卓巳は電話の向こうで短く言った。
『水野が決めたことなら、俺は見守るよ』
突き放さず、最後まで温かい彼の言葉。
卓巳との7年ぶりの再会が、荒んでいたわたしの心を、どれだけ救ってくれたかわからない。
……ありがとう。
2度も傷つけてしまったその人は、多くのものを失いながらも凛と生きる人だった。
そして莉奈ちゃんという、ひたすら未来に向かう小さな命。
忘れかけていた温かい時間を、思い出させてくれたあの親子を、わたしもずっと見守っていきたい。
もしも願うことが許されるなら、これからもどうか、大切な友でいてください。