プラトニック
突然飛び込んできたその声を、反射的にわたしの耳はキャッチした。
声の方向をふり返ると、数人の生徒たちがロビーの椅子に座り雑談していた。
その中から、わたしは瞬時に彼の姿を見つけだす。
「ん〜、まあまあかなあ」
「また? 瑠衣はいつでも“まあまあ”やんけ」
「万年赤点のお前に言われたくないわ」
言い返された栗島くんは大げさにしかめっ面をした。
それを見て涼子ちゃんが笑っている。
話で盛り上がっている彼らは、わたしの視線に気づく気配はなかった。
「栗島、期末は赤点なしを目指せよ。せっかくの夏休みが補習でつぶれたら最悪やん」
「夏休みか〜。今年は海行きたいなあ」
「ちゅーか、みんなで行けへん?」
「いいねえ。ついでに花火とか」
仲間たちとはしゃいでいる瑠衣の表情は、先生であるわたしに見せる顔と少し違う。
もっと子供っぽいし、いい意味でお行儀が悪いと思う。
浅く座った椅子から、長い足が伸びている。
整った顔立ちは、笑うと急に人懐っこくなる。
相当モテるだろうな、と今さらながら思った。