青色キャンバス
「超可愛い、先輩の泣き顔」
ニヤリと笑う秋君に私は、照れてしまう。
いつもの軽口、これはいつもの軽口なのに………
顔が熱くてしょうがないよ…
「趣味悪い……と思うよ、泣き顔が可愛いなんて」
フイッと視線を逸らす。
そうしたら今度は繋いだままの手が気になった。
温かいな……………
こんなに人に近づいたのは秋君くらいだ。
菜緒ちゃんとすら少なからず開けていた距離を秋君は驚くくらい簡単に縮めてしまう。
まるで、ずっと一緒にいたかのように……
「ねぇ、あの子いいなぁ、あんなカッコイイ彼氏がいて」
「王子ー!」
「やだ!王子が真白先輩と手繋いでるー!」
今度はなにやら外が騒がしいことに気づく。
周りを見ると、女の子達が皆秋君を見て頬を染めている。
あぁ、そうだった。
この人は王子だった!!!
「うぅっ」
―ズサッ
私は慌てて秋君から距離をとる。
離れた手に寂しさを感じたが、すぐにその思いから目をそらした。
「何、先輩俺から逃げてんの?超いい度胸だね」
「あ……いえ、あの………」
周りの視線、秋君の悪魔の笑みに泣きたくなる。
「だ、誰か助けてぇ!」
小さな声で悲鳴をあげる。
すると助け舟なのか、そこに菜緒ちゃんが現れた。
「せーん、ぱいっ!」
「な、菜緒ちゃん!会いたかったよ!」
―ガバッ!
いつもとは反対に私が菜緒ちゃんに抱きついた。
「な、なぬっ!ま、まさかの先輩からのハグーっ!菜緒、もう一生お風呂入りません!!」
「え、いや、お風呂には入ってね?」
嬉しそうな菜緒ちゃんに私は、苦笑いを浮かべる。
温かい………
私の世界は、こんなにも色づいていて、賑やかだったかな…?
「佐藤先輩、離れてくださいよ」
「嫌だね!先輩は私のものよ!ふはは!」
「へぇ?俺を敵にするとか、いい度胸ですね」
遠ざけていたはずなのに……
私の周りはいつの間にか人であふれていた。
「……これが……私の世界……」
あの日あの時を生きていた私は、蛍ちゃんが世界だった。
でも今は?
秋君や菜緒ちゃんがいる今が……私の世界になってる。
「……ふふっ…」
なんだ、私……ちゃんと今を生きてたんだ……
「「先輩?」」
二人は不思議そうに私を見つめる。
そんな二人に私は笑顔を向けた。
「ありがとう、二人共……」
そんな私に、二人は優しく笑いかけてくれた。
私は、もう歩きださなくちゃいけないのかもしれない………