青色キャンバス




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夜、皆が思い思いに過ごす自由時間に私は、スケッチブックと鉛筆をもって浜辺へと来ていた。



「忘れないうちに書きとめておこう」


学校に戻ったら本描きできるように下書きをするのだ。



昼の海はまるで自分の存在を主張するように力強かったけど、今は……
その控えめな輝きが幻想的で美しい…



―カリッ、シュッ


鉛筆が波の音と重なるように海を象っていく。


私はただひたすらに鉛筆を動かした。
こんなに穏やかな気持ちで絵を描くのはいつぶりだろう……


悲しみを、叶わない願いをぶつけるように…
嫌な現実から目をそらすようにひたすらに絵を描いていたあの頃とは違って絵にも温かさが反映してる。



「……不思議なの、蛍ちゃん……」



私は、書き終えたデッサンを見なからそこにはいない大切な人へと声をかける。


「あんなに苦しかったのに、今は……苦しくない。蛍ちゃんがいないのに、私…笑えるようになってた…」




ねぇ、蛍ちゃん……
私は、そんなふうに幸せを感じてもいいのかな?
私だけ……私だけ先に歩みだしていいの?




最後は私への問いだった。
あの日にいる蛍ちゃんをおいて、私は……



「…コラ、女が一人で出歩かないの」


―コンッ


「あたっ」


何か固いものが私の頭を小突く。
振り返ると、ジュースをもった秋君が立っていた。



「……秋君」

「俺に会いたかったって顔してる」


秋君は冗談で言ったんだと思う。
それでも、秋君が言った事は………


「………うん」


「………え……?」


「会いたかった…秋君に…」


不安になると、あなたに会いたくなる。
それはどうしてなんだろう……


「な、先輩……そんなの、反則だろっ」


するといつもの軽い秋君じゃなくて、男らしい口調に変わった。
秋くんが余裕の無い時の癖だ。
心なしか顔も赤い。



「あ、秋君………?」

「何、俺今余裕ないから、それ以上近づいたら襲うぞ」



―ドキンッ



なんか、秋君のこの口調って………
心臓に悪い……


「ねぇ、雛先輩………」


「え?」


落ち着いたのか、秋君は私の隣に座り、海を見つめたまま私に話しかけてくる。

      

















 
 





 
    














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