青色キャンバス
「お疲れ様っす!」
「おう、お疲れ様!」
カフェの営業が終わり17時。
日中までの営業で今日は店じまいをしたらしい。
「お二人とも、お疲れ様です」
お辞儀をすると、二人は私の所へとやってくる。
私たちは席に座りそれぞれ志賀さんはビール、秋君はジンジャーエール、私はピーチジュースを手にもつ。
これから、飲み会をしようという事になったのだ。
「「「かんぱーい!」」」
コツンッとコップをぶつけ乾杯し、一口飲む。
ちよっと緊張するな……
志賀さん、優しそうだけど初対面だし、こんなにいろんな人と接するのは最近になってからだから……
「そ、そういえば、お店のLa Première étoileってどういう意味なんですか?」
緊張を悟られないように当たり障りのないこのお店の名前について聞いてみる。
「あぁ、La Première étoileはフランス語で『一番星』って意味なんだ』
「一番星……素敵です!」
「だろ!ここが訪れた人の迷った時、悩んでいる時の憩いになれるように、来てもらえるような道しるべになればいいなー、とか思ってさ」
そんな志賀さんの気持ちがこもったお店なんだ……
繁盛している分けがわかった気がした。
誰かの為を思っておもてなしされたら、皆また来ようって思うもんね。
「にしても…おい、秋!まさかお前の彼女がこんなに可愛いなんて知らなかったぞ」
「ですよね?あげないけど」
たまにタメ語を使う秋君を志賀さんも気にせず可愛がっている。秋君にとっては、お兄さんみたいな関係なのかな?
「なぁ、雛ちゃん。こんな腹黒男でいいのか?今ならまだ間に合……グホッ!」
秋君は志賀さんのみぞおちに一撃を喰らわせた。
「やめてよ、志賀さん。俺の努力を水の泡にするともり?」
秋君は黒い笑みを浮かべる。
「ふふっ、二人とも仲良いんですね」
「雛ちゃん、これから仲良くしよーな!」
志賀さんは私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「先輩に触るの禁止!」
「おー、秋のヤキモチはレアだぞ!」
ふたりのふざけあいに笑みがこぼれる。
誰かとこんなふうに過ごすのを、こんな温かい気持ちで見ている事にびっくりする。
私、いつのまにか誰かと過ごすことに慣れてる…
「ねぇ、先輩も俺じゃ不満?」
「あ、え!?」
秋君がズイッと私に顔を近づけてくる。
「コラ、イチャつくな!」
-ゴツンッ!
「痛い、志賀さん!」
「ったくよ、それじゃあ本音が聞けねぇーだろ!」
二人がジッと私を見つめてくる。
これは…言えってことだよね?
無言の圧力に私は諦めて話す事にした。
「私、秋君がイケメンだから好きになったわけじゃないんです」
そう、私は秋君の事も、たぶん他の誰も好きになる事はなかったはずだった。
「秋君は、もう誰も好きになれないと思ってた私に、もう一度恋を教えてくれた人なんです」
また失うかもしれない恐怖を消すように抱き締めてくれた。だから私は、蛍ちゃんという存在にゆれ動きながらも秋君の傍を離れられない。
「私の心を救って、守ってくれたから…。私はまた笑えたんだと思うの」
私は照れながら秋君に笑いかける。
「ありがとう、秋君」
本当に感謝してるよ。
私を守ってくれてありがとう。
「……先輩、俺も先輩にたくさん救われてるよ」
「そうなの?」
でも、私が秋君になにか出来ているのなら、それは嬉しい。
「そっか、秋も本気で付き合ってんだな」
「そ、俺が本気になった女なの」
秋君はぎゅっと私を抱き締めた。
「はいはい」
志賀さんは呆れたように言いながらも温かい瞳を私たちを見つめていた。