青色キャンバス



「それに、お互いに好きで結婚したわけじゃない。俺の父親の金が好きなだけで、愛しあってたわけじゃない。他にも男がいたしな」


「………そっか……」


「だから、女は汚いモノに見えるし、結婚なんかお互いの利益があるからするんだと思ってた。例えば金がある、容姿がいい、体の相性が良いとかな。利害の一致…契約と同じだって…」


私は…親が離婚して、再婚をしたけど、お母さんが、決めた道なら良いと思った。


でも、義兄の亮さんは嫌い。
私は、家族になんかなれないと思った。
それに、あの時はどうしてこんな目に合わなきゃいけないの?
お母さんのせいだってずっと思って……


でも、家族を憎むのは苦しい。
お母さんの幸せを願う反面、私はお母さんを憎んだ。


だから…
蛍ちゃんのことを抜きにしても、私はここに一人で住むことを選んだんだ。



「ねぇ、私も人を信じられなくなる時があるよ」

「先輩も?」


それに頷いて私は笑う。



そうだ、私が一人でここへ残った時、私の傍には 蛍ちゃん、奈緒ちゃんがいてくれた。



そして今は……秋君がいる。



考えてみれば、私はいつも誰かに守られてた。


「でもね、私は気づけたんだ。一人で生きていると思ってたけど、傍にはいつも誰かがいて、助けられてたって」



私は一人じゃなかった。


家族の事で悩んでた時、絵がうまく描けなくなった時も蛍ちゃん、奈緒ちゃんの何気ない一言で救われていたり、蛍ちゃんを失ってからは秋君が私の心をいつも光ある方へ引っ張ってくれた。


「その辛さが大きすぎて、実はたくさん傍に溢れてる優しさに気づけないの。でも、思い返してみると、あ、これは私の事を思ってくれた言葉なんだってわかる」


どうしても、悲しい事、辛い事は心のほとんどを支配してしまうけど、私は優しさ一つ一つに気づくたび、心が温かくなった。


「先輩は優しいから……。”笑顔を張り付けた、優しくて可愛い俺”を皆求めてるだろ?それに応える俺の外身だけを欲しがる奴が近づいてくるだけで、俺にはそんな奴、いない……」


また笑ってる………泣きそうなのに…
辛いはずなのに、まるで自分を傷つける事で心を守ってる…
私を見てるみたいだった。




「秋君、無理に笑わないで」

「せ……んぱ………い?」


秋君の両頬を両手で包み、引き寄せた。
驚いている秋君の額にコツンと自分の額を合わせる。




「私は、秋君が笑ってないからって嫌な気持ちにはならないし、どんな顔も気持ちも知りたい」


だから、色んな顔を見せて?
悲しいという気持ちを隠さないで。


秋君の好きなものを教えて?
私にも同じ世界を見せて……


「秋君の世界に私も入れて?」


私に本当の笑顔を見せて?
私は秋君の全てが………好きなんだよ…



「先輩……俺に笑わないで、なんて……。そんな事言われたの、雛先輩が初めてだよ……」


-ポタッ


頬に落ちてきた雫、私は受け止めるように瞼に口づける。



「俺、実はものすっごく腹黒いし、性格悪いし、可愛く無いよ?」


「うん、そんな秋君も全部………好きだよ」



好き………
言いたかったけど言えなかった言葉をやっと口に出来た。


でも、今すごく伝えたかった。
好きなの、秋君が………


私が好きな秋君を、秋君自身が嫌いにならないで…












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