青色キャンバス
03.ふたつの恋心
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9月。
生い茂っていた緑の葉は茶色く染まり、落ちてきた秋の季節。新学期が始まって数日経った今日、私は二枚の紙切れとにらめっこしていた。
「うーん………」
放課後の美術室、絵も描かずに唸っている私を皆が遠目に見つめているのが分かる。
「ちょ、部長どうしたんだろうね?」
「なんか悩んでるみたいですよ?」
ヒソヒソと部員の声が聞こえてくる。
あぁ、集中して考えられない。
何に悩んでるかって……
「進路か…………」
そう、目の前にあるのは進路希望調査表と伊達さんの連絡先。私は今、夢と現実の間で思い悩んでいる。
画家なんて、ほんの一握りの夢だよ。
私なんかが、なれるわけない……
だからと言って捨てられる夢でもないのだ。
絵画コンクールは3ヵ月後、もう時は迫っていた。
「せーんぱい!」
ーガバッ!
「んぐっ!この声はっ…奈緒ちゃん?」
絞まってる、首が絞まってるよ!?
苦しいー!!
「顔色悪いですよ!?」
「それは確実に佐藤先輩のせいでしょうね」
私から奈緒ちゃんを引き剥がしたのは秋君だった。
「二人とも、おつか……」
「にしても!!酷いですよー!!二人が付き合っ…モガッ!!」
私の言葉を遮ってとんでもない事を口走ろうとした奈緒ちゃんの口を、秋君がすかさずふさいだ。
「佐藤先輩?俺のファンに雛先輩が集団リンチに合ってもいいんですか?」
黒い笑みを放つ秋君に奈緒ちゃんは真っ青になって首を横にぶんぶんっと振る。
確かに、知られたら追いかけ回されるのかな……
秋君とは違う意味で。
こ、怖っ!!
「ごめんね、奈緒ちゃん。夏休みだったし、奈緒ちゃんにはちゃんと伝えようと思ってたよ」
「せんぱいぃっ!私だけの先輩がぁぁっ!」
抱きついて喚く奈緒ちゃんの頭を私はあやすように撫でた。
「私にとって奈緒ちゃんが大切な事には変わらないよ。私は、奈緒ちゃんが傍にいてくれるから、こんなに毎日が楽しいって思えるようになったの」
「先輩……ふふっ、まぁ、王子もなかなかやるな!」
奈緒ちゃんは秋君を見て嬉しそうに笑った。
秋君もそれに頷く。
………?
なんか、二人に通じ合うものがあるような、そんな気がした。
「たまには、私にも先輩を補給させてくださいね!」
奈緒ちゃんはそう言って笑う。
「駄目ですよ。俺のですから」
「ケチ」
「そうなんです、俺、ケチなんですよ」
「ひ、開き直りやがったー!!」
二人がまたじゃれあっている。
「ふふっ」
そんな二人が面白くて、ついさっきまで悩んでた事が嘘みたいに心が晴れていた。
「先輩、何に悩んでたの?」
秋君が私の手元をのぞき込んでくる。
「あ、先輩、あのコンクールに出すかどうかで迷ってるんですか?」
「画家になれるのか、で悩んでるんじゃない?」
二人にはお見通しみたいだ。
どうしてわかるんだろう、本当、敵わないなぁ。