青色キャンバス


「…先輩も綺麗だよ」

「!!」


秋君は私の頬を優しく撫でる。


いつもの冗談っぽい言い方では無い。瞳は真剣に私の瞳を捕らえる。


「私は…綺麗なんかじゃないよ…。綺麗なのは秋君…」

「女顔って言いたいの?」


秋君は眉間にシワを寄せる。それから恨めしそうに私を見た。


秋君…
女顔の事気にしてるもんね…


でも私が言いたいのはそういう事じゃない。



「秋君が私に見せてくれる笑顔は…」


初めて出会ったあの日も、今この瞬間も…



「いつも偽りなく綺麗だったから…」


だから私は……
秋君の笑顔に惹かれた。



「私には無くて、綺麗なもの…」



羨ましい、私には無いもの…



「…先輩にだってある。今はまだ忘れてるだけ…」


「忘れてる……?」


無いのではなくて忘れてるだけ…?



「だって、写真の中の先輩、心から笑ってたでしょ?」


写真……
部屋の写真の事ね…



秋君、見てたんだ…
私と蛍ちゃんの写真。
確かにあの頃の私は笑えてたかもしれない…


「なら無くしたんだよ。きっともう見つからない…」


笑い方がわからない…
前のように自然になんて笑えない。


「…取り戻すよ、俺が絶対に取り戻す」

「秋…君……」


秋君…
すごく悲しそうな顔をしてる。


私の…せいだね……


ならせめて……
もしも私が心から笑えるようになったら…



「その時は秋君に一番に笑ってみせるね…」

「…っ!!」


秋君は驚いたように私を見る。


それから秋君は無言で私の手を握った。


「約束…」

「え、うん…」



秋君は私の小指に自分の小指を絡めた。










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