最悪から始まった最高の恋
 バスルームの扉を少しだけ開け手を伸ばし、扉の向こう側のノブに下がっている紙バッグを引ったくるように取って慌ててまた閉めた。

 それから髪の毛を乾かし、いつもの様に後ろに一つにゴムでまとめ、トレーナーにジーンズ姿に着替えた私はいつもの頑張るど根性娘だ!!
 やっぱりあんな気取ったドレス姿の私なんて似合わない。

 あのブルーの華やかなドレスや、ビスチェ(ドレス用の下着)など、昨日借りた物を紙バッグに放り込んだ。

 今までお付き合いしたボーイフレンド以上で、微妙に恋人っぽい人は何人かいた。だけど唇に軽く触れるキスぐらいしか経験がない。
 何せ私の背後には、あの熱血父ちゃんが仁王立ちしていたから……。自身も晩生で、それが当たり前だと思っていた。だから、26歳でバージンだなんてやっぱり、珍しいのかもしれないけれど。それでいいと思っていたし、操は結婚する夫になる人に捧げるものだと思っていた。

 なのに、なのに……。あんなクソ野郎と……。
 流石に大泣きする年齢ではないけれど、やっぱり悔しい……。完全に遊ぶ女だと思っているのだろう。私はそんな安っぽい女じゃないっつーの!!!

 冷たい水で顔をバシャバシャ洗い、泣き顔を洗い流し、自分に気合いを入れた。

 身支度が終わって、ガチャッとバスルームのドアを開けて、ベッドの方に視線をやると、憎々しい円城寺がガウンを着て、ベッドに腰掛けノートパソコンを広げ、何やら仕事のチェックをしている雰囲気だった。
 部屋の遮光カーテンは開けられてて、大きな窓から射し込む光が眩しくて、一瞬目が眩んだ。
 
「円城寺さん!! 言っておきますけど、私は人手が足りないからどうしてもとママさんに泣き付かれて昨日は止むなくホステスのふりをしていただけで、あの店のホステスじゃありませんから!! 枕営業とか太客とか、私には全然関係ないし。あなたに全く魅力感じないし。むしろ逆で幻滅するし、嫌いなタイプだし。私はね!! あの店の調理場で働いていた者なんですよ!! あなたと成田社長が美味しいと言っていたおでんを作ってる板前!! それなのに……。清らかだった私の操を奪って……。一生恨みますからね!! 私の怨念で呪われて、会社潰れちまえ!! この女を食い物にする最低のクズ野郎!!! あとこのドレスあの店のママに返しておいてよね。常連なんでしょ? 私もう辞めたし」

 呆然とする円城寺に、彩菜はあのドレス一式の入った紙バッグを投げつけた。

「じゃあな。あばよ!!」

 そう言って、彩菜は大股でホテルの部屋を出ていった。
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