最悪から始まった最高の恋
　――コン……コンコン……。

　吉村さんが帰ってから、それ程時間は経ってなかったと思う……。

「嫌だ……。また来たの？　ママさんからどうやってでも店に連れて来いって言われたのかしら？」

　余りのしつこさに、彩菜は閉口した。兎に角はっきりと言わなくては……。彩菜は玄関の扉を開けた。

「吉村さん。また来たの？　何度も言いますが、もう店には出ませんよ」

　そう言って、扉の向こうの相手を見たら、吉村さんではなかった……。それは……。

「御倉彩菜さまですか？」

上品な黒のスーツを着こなした、見慣れぬ40代中頃の男性が立っていた…。

「あ…あの……」
　
「どうも失礼致します。実は、円城寺様より、今朝方のお詫びにと、是非お食事にお誘いしたいとのお申し出がありまして、お迎えに上がらせて頂きました」
　
（円城寺……？！）もう関わりたくないし嫌だわ……。彩菜はその忌まわしい人物の名前を聞いただけで、鳥肌が立つ気持ちになった。

「あの……。申し訳ありませんが、お断りさせて下さい」

　あの男は一度だけではなく、味を占めてまだ私の事をいたぶろうと企んでいるのかしら？　彩菜の心の中から嫌悪感が沸々と沸き上ってくる。

「実は……。円城寺様からこう言えば分かると伝言を授かっておりまして……。実は御蔵様が心配するような事は何も無かったと、そしてそれについても状況を説明したいとの事でございます。ですので、もし時間のご都合が少しでも取れましたら、是非ご一緒に来て頂きたいのですが……」

（えっ……。何も無かった？　どういう事なのかしら？）
　彩菜はもう二度と関わりくないと思っていたが、あの時何があったのか？　その真実は知りたいし、何も無かったのだと聞いて、酷くホッとし、話しを聞きいてみたいたい気持ちに少しづつ傾き始めだした。
< 16 / 24 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop