最悪から始まった最高の恋
 質素で小さなカバー付ハンガーラックを開けて、何か目ぼしい服はないかと物色してみるが、どれもカジュアルで、畏まった所に着て行けそうな物がない。

 唯一ワンピースと言えば、黒い礼服だけ……。冠婚葬祭じゃあるまいし……。

「はあっ……。本当にしまった。着て行けそうな服が何もないわ」

 参った……。だけど良く考えたら、着飾って気取ったりしたら、とても気がありますみたいな、相手に勘違いをさせるような印象を与えてしまうかもしれないじゃない。

「そうよ。女の色気もないようなダサい服でいいのよ」

 開き直って、ニットソーにジーンズとブーツという、ラフなカジュアルファッションにした。
 彼氏もいない、これと言ったおしゃれな服もない、出掛ける場所もない……。無い無い尽くしの26歳……。ちょっと淋しい私だなとふと感じた。

 準備を整えて、二階のアパートの自分の部屋から出て、鉄骨の階段を降り始めたら、リムジンに待機していた運転手さんが気が付き、車からすぐに降りて、後部のドアを甲斐甲斐しく開けて「どうぞ」と案内してくれた。

 リムジンの中の広い事……。内装も革張りでふかふかの椅子に、豪華な照明に、何やら色々なシステムの付いた高級仕様みたいだ……。別世界の宇宙船かなと思ってしまう。その場所にとても不釣り合いな私。
 一体何処に連れて行かれるのかしら?
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