最悪から始まった最高の恋
 お店の入り口からして豪華な造りで重厚感があり、ドアボーイが2人ドアの前に居て、とても仰々しい雰囲気だ。
 ドレスコードのある、グランメゾンクラス(料理、サービス、設備、価格等、全てにおいて最上クラスな超高級フランス料理レストラン)のお店だなと感じた。

 見た目は化けたとしても、中身は庶民。しかも庶民の中でも今は貧しい部類。私なんかお呼びではないという感じのお店だ。お店にいる客達は皆セレブやハイソクラスという雰囲気で、気持ちが萎えてしまいそうだった。
 自分はお前とは全く別天地の人間なんだとひけらかしたいのか? 円城寺と言う男はなんて嫌みな奴なんだろうと、彩菜は思った。

 2人で食事するには広すぎませんか? と言うような個室に通されて、案内された席に座って、円城寺氏が来るのを待つ。
 気持ちも落ち着かず、どうすればいいのやらと、みっともないと思いながら目だけ泳がせて、キョロキョロと辺りを伺う。
 サービススタッフからアペリティフ(食前酒)の事を聞かれ、更に心臓はドギマギする。「連れが来てから頼みます」と答えて、下がってもらうが、全く……。きっとあのホテルで嫌みを連発して去って行った私への復讐のような嫌がらせなんだきっと……。彩菜は確信した。

 だんだん待ちくたびれて、このまま帰ってやろうかなと気持ちが揺らぎ始めた頃に、やっと円城寺氏がやって来た。

「やあ、待たせて悪かったね。急な仕事が舞い込んでしまって、どうしても抜け出せなくなってしまってね……」

 少し慌てた様子には見える……。彩菜は蝶ネクタイのタキシード姿で来るのかなと想像していた。男性のドレスコードといって思い浮かんだのがそれ……。でも、円城寺氏は上質のスーツをさりげなく着こなし、しかもとても似合ってるなと思った。
 色々嫌みを言おうかなとも思ったが、このお店の雰囲気が彩菜を圧巻させてしまっているのかもしれない……。いつもの元気な調子は出ず、小心者になっている自分がいる事を感じていた。

「どうも……」

 なんて言っていいのかも分からず、口から出てきた言葉はこの言葉だった。

「色々言いたい事や聞きたい事もあると思うけど、兎に角、食事をゆっくりしながらで、いいかな?」

「はい」

 ナイスタイミングでサービススタッフがメニューを持ってやって来た。
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