最悪から始まった最高の恋
 ――貝殻になりたい……。石になりたい……。人間やめたい……。彩菜はそう思った。

「これは大人しくなるまで見張ってないと、この状態で部屋を飛び出して行かれてはという心配もあったし……。君を送って行くと連れ出した責任もあるから、放置する訳にも行かず……。仕方がないから布団を被せて君を暫く押さえ込んでいた。で……」

「で……?!」

 聞きたくないけれど、やはり最後まで聞きたいというジレンマに陥りながら、彩菜は弱々しい声で聞いた。

「で……。暫く訳の分からない事を言ったり、布団の中でゴソゴソもがいて手に負えない状況だったが、やっと静かになって、寝息を立てて寝始めたという訳」

 えっ?! これで話しが終わり? 

「あのぉ……。円城寺さんが何で同じベッドで裸だったのかが抜けてますけれど……」

 また話しの腰を折るなと叱られないかと、少し恐る恐る聞いて見る。

「ああ。あれ。気になるでしょ?」

 意地悪そうにニヤッと口角を上げる円城寺。

「君がやっと大人しくなって時計を見れば間もなく3時。私もすっかり精根使い果たし疲れてしまって、睡魔も襲ってきたし、元々何でこの子の為にホテル予約したり、面倒見たり、ここまでやらなくてはいけないんだと思ったら腹が立ってきて……。おまけに部屋はセミダブルルームでベッドは一つしか無いし、まっ、隣に枕が転がっていると思えばいいかと、更に、ちょっとビビらせてやろうと思ってね……」

「で、裸になって隣に寝ていたって事ですか?」

 ちょっと納得いかないような、不満げに口を尖らせる彩菜。

「そうそう……」

 更にニヤニヤと意味深な表情の円城寺。

「でも……。裸にならなくても……。そこまで嫌がらせしなくても……」

 小声でぶつぶつと言い始める彩菜。

「あ……。言っておくが、私はいつも寝る時は裸。で、あの時は、それは悪いだろうと思って、下着は付けてましたから……」

「…………」

 う〜〜〜〜ん。頭の中がグルグルとこんがらがった毛糸の玉のような状況だったが、何も無かった事は喜ばしい事だけれど、父が生きていたらこっぴどく叱られるような失態を自分が犯した事も、事実。恥ずかしくて、自己嫌悪の気持ちでいっぱいで、あの日の事をリセットしたい心境。
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