最悪から始まった最高の恋
 成田社長のお触りに不快感が高まり、堪忍袋の緒が切れかかりそうになっていた。『ちょっと失礼します』と言って、トイレに行くふりをして、席を立とうと決心した時だった。

「あやなちゃん、こちらの社長さん、かなり良い男だろう?」

 成田社長からそう言われて、ふと向いの席に座っているイケメン社長の顔を見た。

「は……はぁ」

 愛想笑いを浮かべて、頷く彩菜。

「こちらの社長さんは、円城寺不動産レジデンス社長の円城寺晶(えんじょうじ あきら)さんだよ。円城寺不動産レジデンスって会社はテレビCMでもやってるし、知ってるだろう?」

 成田社長がご機嫌な感じで、ガハハッ! と笑いながら、紹介した。

「あ……はい。知ってます。女優の“間宮きらら”ちゃんが、コマーシャルに出てる、あの会社ですよね?」

 (へぇ――っ。そんな有名な会社の社長さんが、こんな所に……?)そう思いながら、彩菜は円城寺社長をしげしげと見た。

 円城寺はニコリともせずに、値踏みをするかのように、彩菜の事をジロジロと見た。

 (うわっ。目つきわるぅ。人を見下すような目つきで……。自分はお前らとは格の違う人間だ!! みたいなオーラをビカビカ発していて……。私こう言う人苦手だなぁ)彩菜は一目見てそう思った。
 ついつい睨み返しみたいな顔をしていたかもしれない……。

「円城寺さん、お好みの子がいれば、遠慮無くご指名してくださいよ! いつもなら店イチバンのカワイコちゃんは、譲りませんがね……。今日は、円城寺さんが主役ですから……」

 相変わらず上機嫌の成田社長。

「じゃあ……。その成田社長の右隣に座っている子をご所望しても?」

 不敵な笑を浮かべる円城寺社長からいきなり指名され、彩菜は『へっ……?!』と思った。成田社長は一瞬顔をヒクッとさせたが、また営業愛想笑い顔にすぐ戻り、お愛想を言い始めた。

「い……いやぁ。円城寺さんはお目が高い。好みも私と一致するとは……。気が合いますね。さ……。円城寺さんの隣に行って……」

 そう言いながら、成田社長からグイグイと押され、彩菜は円城寺社長の隣に席を移動した。
< 6 / 24 >

この作品をシェア

pagetop