桜涙 ~キミとの約束~
✿大嫌い
「おはよう、小春」
朝、登校する為に玄関から一歩出た私を迎えるのは奏ちゃん。
薄曇りの空の下で優しい笑顔を浮かべる奏ちゃんは、私のよく知る奏ちゃんだけど……
「奏ちゃん、おはよ」
「行こうか」
私の意思など構わずに手を繋いで歩く奏ちゃんは、私の知らない奏ちゃんだ。
しっかりと奏ちゃんに繋がれた私の手。
小さい頃とは全然違う大きさと感じる温もりに戸惑う。
「今日はもしかしたら雨になるかもしれないってニュースで言ってたよ」
「そうなんだ。傘、持ってきてないのになぁ」
「僕が持ってるから、降っても大丈夫だよ」
今日も教室まで迎えに行くから。
柔らかい笑みでそう言った奏ちゃんの髪が、ふいに吹いた夏の香りがする風になびいて揺れる。