桜涙 ~キミとの約束~
✿思い出の場所
奏ちゃんに、本当のお母さんと今のお母さんの話を聞いてから二十日後。
季節はすでに夏真っ只中。
高校もすでに夏休みに入っている八月の初旬。
「あっつ~い!」
私は、久し振りに出た外の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
ギラギラと輝く太陽と、空気を震わすように合唱するセミの声。
昨年まではちょっとぐったりするような光景、音、温度が、今年はとても貴重なもののように感じる。
「小春、早く乗りなさい」
いつの間にか車に乗り込んでいたお父さんが運転席の窓を開け、私に声をかけた。
素直に頷いて後部座席に乗り込むと、助手席に座るお母さんが「忘れ物は?」と訪ねてくる。
私が「ないよ」と答えると、車はいよいよ発進して病院の駐車場を出た。