桜涙 ~キミとの約束~
入院からひと月とちょっと。
薬の効果によって検査結果も安定しているからと、退院する事を許されたのが三日前。
食事や運動といった日常生活に色々と制限はあるけれど、それを守り薬をかかさずに服用すれば自宅療養でもかまわない。
先生にそう言われたときは本当に嬉しかった。
このまま普通の生活を送り続けたいなと希望に満ち溢れた心で、車の外を流れる景色を眺める。
道行く人たちはみんな夏の装いで太陽の熱を浴びながら歩いている。
スーツを着てハンカチで汗を拭きながら歩いているサラリーマンはちょっと大変そうだけど、夏休みを満喫しているであろう同世代くらいのグループはやっぱり楽しそうだ。
はしゃぐように歩いている男女のグループを見ていたら、頭の中に自然とリクと奏ちゃんの事が浮かんだ。
実は、今日退院する事はリクと奏ちゃんには知らせていない。
奏ちゃんは夏休み中はほとんど店の手伝いをするのを知っている。
そして、リクには予定がないのもメールでリサーチ済みだ。
だから私は、二人のところに突撃して驚かそうと企んでいる。
奏ちゃんはお店にいるとして、リクは家……かな?
とにかく、一度帰宅して荷物を置いてから計画を実行する事にしていた私は、ちょっぴりワクワクしながら家までのドライブを満喫した。