桜涙 ~キミとの約束~


奏ちゃんと手を繋いでも、こんな風にはならなかったのに、と。

──瞬間、入院中にも何度か感じていたものが急激に膨れ上がる感覚。

温かくて優しくて、けれど切ないような複雑な感情が私を満たそうとした刹那……


「……実はさ」


祭囃子をはじめとした周囲のざわつく音をBGMに、リクが口を開いた。

彼は私ではなく、人波や夜店を眺めながら続ける。


「なんとなくだけどオレ、奏チャンは今年の夏祭りはきっと遅刻参加になるってわかってたんだ」

「……え?」

「お袋の命日に奏チャンが手を合わせに来てくれたんだけど、その時に言っててさ。今年は家の手伝いが入っちゃったし、小春も入院してるから中止かなって」


確かに実際、奏ちゃんは最近忙しそうだ。

どうやらその理由は、奏ちゃんのお父さんが考えた夏の新作ゼリーがヒットしているかららしい。


「だからさ、今年は小春と二人で回る時間があるって予想してた」

「そ、そうなんだ」


どうして今、そんな話をするんだろう。


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