桜涙 ~キミとの約束~


奏ちゃんから連絡が入ったのは、それから少ししてからだった。


「奏ちゃん、今から来るって」


携帯を肩からかけていたバッグにしまってリクに告げると、私の手をしっかりと握ってくれていた温もりが、そっと離れた。

代わりに、リクが持ってくれていた熊のぬいぐるみが渡される。


「じゃ、あとはソイツに守ってもらって」


言って、おどけたリクに、どう返していいのかわからなくて、私は笑んで「そうだね」と返した。

でも……本当は、手を離された事に寂しさを覚えていた。

そして、痛みも。

だけど、それを隠すように私は笑ってみせる。

今の私は、リクの瞳にどんな風に映ってるんだろう。

無理しているように見える?

ちゃんと楽しそうに見えてる?

こんな風に自分を偽るように笑うなんて、まるで……

何かを抱え隠す……リクみたいだ。

もしかしたら、リクも痛みを誤魔化しながら笑っていたの?

そんな疑問が浮かんでしまい、途端にリクの事が心配になってくる。

けれど今は、年に一度しかない夏祭りを、リクと過ごす時間を大切にしたいから。


< 220 / 494 >

この作品をシェア

pagetop