桜涙 ~キミとの約束~


だって、リクのお母さんはあの優しいお母さんでしょう?

笑顔が素敵な、料理上手のお母さん。

奏ちゃんだって会った事ある。


アッチって……誰?


よくわからないけど……

きっと、私の知らない話。

奏ちゃんとリクだけがわかる話なんだ。

そう思ったら少し寂しくて、けれどそれを思いがけずこんな形で知ってしまった事に動揺して、私はただ立ち尽くしていた。

だから、気付けなかった。


リクが、部屋から出て来る気配に。


「……小春」


見上げたリクの顔には、驚きとも困惑ともつかないものが浮かんでいる。


「あ、の……ゼリー……」


盗み聞きになってしまった罪悪感で、言葉がうまく出ない。


「…………」


そんな私を、リクはジッと見つめているだけだ。

まるで、何かを探るように。


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