桜涙 ~キミとの約束~


私は足を止め、力なく笑う。


「な、何でもないよ」

「ホントに? 具合悪いならすぐに言えよ?」

「うん。でも、そうじゃないから」

「そう? じゃあ……悩み事か」


それには答えずに私は歩き出した。

そうすればリクも歩き出して、私の隣りに並ぶ。


「悩んでるのは奏チャンのこと? それとも……」


夏の陽は長い。

夕暮れ前の独特の青さを残した空の下で発せられたのは。


「オレの母親のこと?」


感情の読み取れない、リクの声。


私の心臓がひとつ、大きく跳ねた。


何も言えずにいると、リクがクスリと笑う。


「相変わらず隠し事できないよなお前。わかり易すぎ」

「ご、ごめんっ。でもね、立ち聞きするつもりはなくて……」

「うん、わかってるよ」


それきり、リクは無言になった。


< 235 / 494 >

この作品をシェア

pagetop