桜涙 ~キミとの約束~
私は足を止め、力なく笑う。
「な、何でもないよ」
「ホントに? 具合悪いならすぐに言えよ?」
「うん。でも、そうじゃないから」
「そう? じゃあ……悩み事か」
それには答えずに私は歩き出した。
そうすればリクも歩き出して、私の隣りに並ぶ。
「悩んでるのは奏チャンのこと? それとも……」
夏の陽は長い。
夕暮れ前の独特の青さを残した空の下で発せられたのは。
「オレの母親のこと?」
感情の読み取れない、リクの声。
私の心臓がひとつ、大きく跳ねた。
何も言えずにいると、リクがクスリと笑う。
「相変わらず隠し事できないよなお前。わかり易すぎ」
「ご、ごめんっ。でもね、立ち聞きするつもりはなくて……」
「うん、わかってるよ」
それきり、リクは無言になった。