桜涙 ~キミとの約束~


「……オレさ、この家の子じゃないんだ」


まるでポツリと、水面を静かに揺らすように。


「正確には養子。ま、親戚ではあるんだけどね」

「そうだったんだ……」

「オレはね、両親に捨てられてるんだ」


私は驚き目を丸くしつつも、悲しい告白に眉をハの字にする。


「オレは、母さんが愛人しててできた子供でさ。けど、父親からは認知されず、母子揃って捨てられた。でも、オレはそれでも良かった。父親がいなくたってかまわなかった。でも……」


リクの瞳に影が差した気がして、私は無意識にスカートの裾をキュッと握った。


「でも、母さんは違った。母さんは、自分の愛した男に捨てられた事が苦しくて仕方なかった」


出会った事のないリクの本当のお母さん。

大好きな人に捨てられるという苦しみは、私には経験のないことだけど……

きっと、身を切られるような思いだったんだろうと予想した。


「そんなある日、外から帰って来たオレは、母さんがベランダに立ってるのを見つけたんだ」


< 239 / 494 >

この作品をシェア

pagetop