桜涙 ~キミとの約束~
「……オレさ、この家の子じゃないんだ」
まるでポツリと、水面を静かに揺らすように。
「正確には養子。ま、親戚ではあるんだけどね」
「そうだったんだ……」
「オレはね、両親に捨てられてるんだ」
私は驚き目を丸くしつつも、悲しい告白に眉をハの字にする。
「オレは、母さんが愛人しててできた子供でさ。けど、父親からは認知されず、母子揃って捨てられた。でも、オレはそれでも良かった。父親がいなくたってかまわなかった。でも……」
リクの瞳に影が差した気がして、私は無意識にスカートの裾をキュッと握った。
「でも、母さんは違った。母さんは、自分の愛した男に捨てられた事が苦しくて仕方なかった」
出会った事のないリクの本当のお母さん。
大好きな人に捨てられるという苦しみは、私には経験のないことだけど……
きっと、身を切られるような思いだったんだろうと予想した。
「そんなある日、外から帰って来たオレは、母さんがベランダに立ってるのを見つけたんだ」