桜涙 ~キミとの約束~
「……おかえりなさい、奏くん」
口元に浮かべている笑みとは不釣合いなほどの冷めた瞳でそれだけ言うと、奏ちゃんの返事も待たずに背を向けてリビングへ戻ろうとする。
「ただいま、お母さん」
聞こえているのかいないのか。
奏ちゃんがお母さんの背中越しに答えた声は、私たちに向けられるものとは違い、どこか悲しさを纏っていた。
それからすぐ、心美ちゃんと別れて奏ちゃんの部屋へと移動して。
「店に行って父さんからお菓子もらってくるよ」
奏ちゃんは言い残して、部屋を出て行った。