桜涙 ~キミとの約束~


何度も梢ちゃんを呼ぶその声に、ひどく悪い予感がした。


そんなもの、吹き飛ばしたくて。

やっぱり私の勘違いだったと思いたくて。


看護士さんに聞きに行けばいいんだって、そう思うのに。


怖くて、足が動かない。


まるで床に張り付いてしまったように立ち尽くしていると、梢ちゃんの病室から大塚先生が出てきた。


先生は私に気付いて驚いた表情を見せ、足を止める。


ドクンドクンと、心臓が胸を打つ中……


私は、乾た唇を動かした。


「……あ、の……梢ちゃん、大丈夫ですか?」


大丈夫だよと、言って欲しい。

どうか、お願いだから。


「……梢ちゃんは、とてもとても頑張ったよ」


そう言って、目元にシワを作って優しく微笑んだ大塚先生。

それだけで、これから受けるであろう衝撃が予想できて、私はゆっくりと深呼吸を繰り返した。


「いつも前向きに一生懸命生きて……」


先生が私の様子を見ながら、なだめるような声で紡いだ言葉は──


「今、神様のところに旅立ったよ」


悲しくて、残酷なものだった。



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