桜涙 ~キミとの約束~
✿今度こそ
たくさんの医療機器がベッドを囲んでいる。
継続的に響く電信音は、オレの大切な子の様子を教えてくれるもの。
「小春、また明日」
静かに別れを口にすると、酸素マスクをつけた小春が小さく頷く。
その瞳は、柔らかく細められてオレを見ているけど……
そこに、力強い生命力はあまり感じられない。
鼻の奥がツンとして。
けれどそれを隠すようにオレは小春に微笑み返し軽く手を振ると、後ろ髪をひかれる思いを持ちつつ、いつもより早い時間に病院を出た。
早い時間と言っても、まだ空は紺色に染まり始めたばかり。
外の冷たい空気を肺に入れると、体温が少し下がったような気がした。
病院の前にあるバス停には、ちょうどいつも乗るバスが到着したところだったらしく、扉が開くとお客さんが次々と車内へと乗り込んでいく。
オレも最後尾に並んでバスに乗り込むと、空いていた一人用の席に腰を下ろした。