桜涙 ~キミとの約束~
奏チャンはオレの腕を引いて、道路の脇に移動する。
「小春は、そんなにひどいのかい?」
「……うん。日に日に弱ってる」
横を通り過ぎていくヒールの音にかき消されそうなトーンで言えば、奏チャンは「それは心配だな……」と零した。
オレの知る限り、奏チャンが最後に小春のお見舞いに来たのは、梢ちゃんのお葬式後だ。
梢ちゃんが亡くなって、元気のない小春に笑顔を届けたくて、奏チャンに一緒にお見舞いに行こうと提案した。
奏チャンも小春のことは気になってたんだろう。
一瞬だけ迷った顔をしたけど、「小春を笑顔にするには、突っ込み役が必要だということか」と冗談めかしながらも頷いたんだ。
その日、小春はたくさん笑った。
特別な事は何もしていないけど、オレと奏チャンと小春という慣れ親しんだ関係が、きっと小春を笑顔にさせたんだと思う。
「面会、奏チャンならできると思うよ。行くならおじさんたちに伝える」
「……今は、僕よりも陸斗が傍にいてやるべきだよ」
「どうかな」
「陸斗……?」
奏チャンが首を僅かに捻るしぐさを見せる。
メガネの奥にある瞳が、答えを求めていた。